2.同時並行作業で時短 | PERT/Time技法(パート・タイム)

技法概要:PERT/Time

業務改善方針の大きなテーマの1つに「時短(時間短縮)」が挙げられます。時間短縮手段は、効率化や高速化とは限りません。

すなわち、解決策は、

  1. 処理速度を上げる
  2. 効率化する
  3. 同時並行的に作業する

のいずれかで実現可能です。

一般的には、速度を上げることを考えがちですが、タマネギを切る速度をむやみに上げると、怪我をしてしまいそうです。
あなたの職場では、「処理速度を上げる」ことだけ考えて、失敗していませんか?

同時並行で作業する

例えば、人参をゆでながらジャガイモを切ることは同時にできます。火の通りにくい根菜類から先に加熱するのは、合理的ですらあります。
また、複数の人がいれば、人参とジャガイモと玉ねぎの下ごしらえは、同時にできます。
こうした発想は、先に紹介した「業務体系分析」で正確に棚卸ができてこそ、正しく設計ができます。
タスク間に前後関係が無ければ、基本的には同時に処理できると考えられます。

実は、大分類の中にも「同時に処理可能」な組み合わせに、「ご飯を炊きながら、カレーを作る」が挙げられます。ごはんなら炊飯器にセットしてしまえば待つだけですから、その間に他の作業ができますね。

※「営業月次報告レポートの作成」の例であれば、A商品とB商品の売り上げ登録は、同時にできるはずです。

限られた人員で可能な分割を行う

几帳面な人の中には、何でもかんでも分割して、並行化しようとする方がいます。

しかし、現実的には、3人しかいないのに、5つの作業を同時並行で進めることはできません(制約条件、といいます)。
とはいえ、炊飯のように全自動でできる要素であれば、制約条件からは切り離して考えられます。

このように、一定の制約条件のもとで、業務の分割粒度をを最適化するには、大分類から段階的に掘り下げていき、分解しても平行的にできない程度で止めておく方が、やりやすいのです。

PERT図の例(カレーライス盛り付けまでの平行作業)

前後関係の有無を考える

各タスク間には、「あるタスクが終わらないと、次のタスクができない」関係があります。
例えば、カレールーとともに「煮込む」前に、少なくとも洗い終わっている必要はあるでしょう。

また、必ず前後関係を維持しなくてもよいが、前後関係に意味がある場合もらいます。
例えば、丸ごと煮込んでも食べられますが、火の通りや味がしみこむことを考えると、適当な大きさに切ってからの方が合理性があります。
一方、人参とジャガイモは、どちらを先に切らなければならないという関係性はありません。

これこそが、「同時並行処理が可能」な組み合わせです。

前後関係の必然性

例えば、ジャガイモは先にゆでておくと、皮が容易に剥けます。そのため皮を剥かずに茹でて、あとから皮を剥いたほうが合理的です。
このように、従来常識だと思っている手順も、目的を考えると絶対ではないことが多いのです。
前後関係に本当に必然性があるのか、今一度検証してみましょう。

前後関係を考慮したPERT図の例

タスクにかかる時間の差を考慮する。

いくら同時並行にできるといっても、方や1分で終わるものと5分かかるものを並行処理しても、他方が終わるのを待たねばならない場合は、4分間待ち時間が生じるため、あまり効果はありません(このような、待ちぼうけ改善をよく見かけます)。
だったら、残り時間に何か入れられないか、という発想がでてきます。

上の図では、食器を用意するのは数分ですが、他の作業は何十分もかかりますから、同列に扱ってそれぞれに担当者を割り当ててしまうと、「食器用意係」はほとんど何もすることがない一方、材料担当に作業が集中してしまいます。

無駄のない同時並行作業とは。

タスクは、業務体系分析によって、目安となる時間とともに分類されています。
更に、前後関係を丁寧に定義しておくと、「あるタスクXは、タスクYより前に終わらせる必要がある」「タスクXは、タスクAとタスクBが終わらないと着手できない」といった関係性の組み合わせにより、以下のような関係性が導き出されます。

上の図は、この前後関係を(無意識にできるレベルで)反映したものです。ここに、時間の要素を反映してみましょう

タスクの前後関係に時間要素を考慮したPERT図の例

これらをつないでいくと、全体が1つの流れ図のようになります。

○と○の間の→が、各タスクを示しており、同じ○から生えているものは、その時点で同時にスタート可能であることを、同じ○に収束しているのは、これらのすべてが終わらないと次のタスクに行けないことを示しています。

こうして俯瞰してみると、開始してから盛り付ける直前に至るまで、材料系のタスクの合計が60分と一番時間がかかっている(クリティカルパス、といいます)ことがわかります。

ならば、時短のために注目すべきは、この一番時間が掛かっているプロセスです。材料加工にかかるプロセスについて、「各要素を早くできるようにする」か「さらに分割する」ことになります。 もう少し具体的に言えば、
[早くする] フードプロセッサを導入して加工時間を短縮する / 圧力鍋を導入して、煮込む時間を短縮する
[更に分割] 材料を切る工程を3人で分担する / 煮込む工程であらかじめお湯を沸かしておく
といった改善手段が見えてくるのです。

こうして、仮に10分の短縮して50分にできたとすると、ご飯を炊くタスクの方が55分となり、クリティカルパスが移動します。

同様に、「圧力釜を使う」「あらかじめ炊いておく」などを考慮し、クリティカルパスを短縮する・・・これを繰り返すことで、ピンポイントで時短箇所の抽出と、その検討が可能になります。

まとめ:同時並行作業で時短するには、合理的に判断するのがコツ

個別のタスクを高速化するばかりが、時短の方法ではないことがお分かりいただけたでしょうか。
また、むやみに分割しても制約条件を意識しないと意味がないことも、視覚的に見えてきたことでしょう。

要は、クリティカルパスを見出し、そこを集中的に「短縮」「分割」することで、全体が時短できるのであって、クリティカルパス以外を時短しても全体の時間にはまったく影響がありません。

PERT/Time技法では、この他「着手をいつまで遅らせてよいか」「前倒しして効果があるのはどこまでか」といったことも分析ができます。