6.やった方が早い(仮想的に)|シミュレーション
技法概要:シミュレーション技法
「売上を今より増やす」には、客数を増やすか客単価を上げるか、いずれかしか方法はありません。
クーポン券を配れば客数は増えるかも知れませんが、割り引いて客単価が低下した結果、赤字になるかも知れません。
値上げすれば客単価は上がりますが、客数が減って赤字になるかも知れません。
こればかりは、どんな計算をしても、答えが出そうにありません。
そんな時は、「やってみる」、すなわちシミュレーションが手っ取り早いのです。
とはいえ、実物を観察していると時間がいくらあっても足りませんから、箱庭的に同様の環境を作って(モデル化といいます)動かしてみると、時間が短縮できます。
最近は、コンピュータを使って様々なパラメータ(価格に対応する来客数などの可変要素)を少しずつ変えながら、短時間で多くのパターンを網羅し、実際に観察したパターンと近似するものと比較することで、有効なパラメータを抽出できるようになっています。
カレー屋さんのための、売り上げ予測方法
カレー屋において、売り上げから在庫の減り具合が予想できることは、バランス分析のところで触れましたが、カレー屋の経営者にとっては、利益を最大化するための価格設定こそ、予測したいことです。
では、カレー屋さんの最適な価格設定と、それによる売上・利益の予測は、どうすればわかるでしょうか?
仮説の検証 + 過去データで裏付け
何も根拠無しに、「¥10値上げしたら、客が1.2%減る」といった仮説を立てても意味はありません。仮説を立てる前提として、予め「実験」をしておくのが一般です。
たとえば、期間限定で値下げキャンペーンを3回行ってみて、価格弾力性(単位価格あたりどの程度客が増減するか)の仮数値を取得する方法が良く使われます。
(飲食チェーン店で、店舗限定で値下げや特別メニューを提供しているのが、これです)
こうした取り組みを継続的に行っていれば、「¥100値下げしたら、客数が20%増えた」「¥50値下げの時は、客数は5%増えた」といったところから、「客数は金額のn乗に比例する」といった傾向が読み取れるので、逆に「¥100値上げしたら客数は20%減るであろう」といった予測ができます。
これを¥10単位で仮説の数字を動かしてみて、その結果がどうなるかを計算(客単価×客数=売上)した時、最大の売上となる金額が、売上を最大にする価格と見なせます。
更に利益を考慮する場合は、売上に対応する原材料のコストを積み上げることで費用が算出できるので、「売上-これに必要な材料費等=利益」として最適解を導くことができます。
こうした計算をいちいち手でやっていると大変ですが、Excelで¥10単位で計算式を設定するといったやり方で、十分実用になるシミュレーションができます。
また、プログラミングの要素を取り入れれば、「どのメニューを前面に出すかで利益がどう変わっていくか」「仕入れはまとまった単位で行うことを考慮して材料費の計算をしたい」といった事を取り入れることもできます。
シミュレーションの、意外な活用法
家族経営のカレー屋さんでも、夫婦2人だけではランチタイムを乗り切るのが大変です。多くのケースでは、忙しい時間を中心にパートタイマーがいるはずです。
パートタイマーは大抵複数いて、組み合わせることで常時必要な人員が確保できるようにする必要があるので、「シフト」を適切に組んでおかないと、人手不足で売上が下がりかねません。
実はシフト勤務表作成も、シミュレーションが得意とする分野です。
例えば、「今度入ったアルバイトのAさんは高校生だから、18:00~21:00までの平日限定」「パートのBさんは子育てがあるので、18:00には保育園に迎えにいかなくてはならない」「連続で5日を超えて勤務させてはいない」といった制約条件をもとに、どの順番で誰を割り当てるかは、最近では戦略的な意思決定となりつつあります。
こんな時、シミュレーションを使えば、急に誰かが来られなくなったとしても、すぐにシフトを組みなおすことができます。
シミュレーションで予行演習~実地の結果を取り入れる
実際にシミュレーション技法が活用されるシーンとしては、以下のようなケースがあります。
- 旅館・ホテルなどのチェーン店で、仲居・板前などを予約状況に応じて最適な配分にする
- 設備投資を行うにあたり、どの性能のものを導入すれば、最適な費用対効果となるか
- ある駅に割り当てるタクシーの台数を、何台とすべきか
- 向こう1週間の各日に、仕込むべき各料理の量と、それに必要な原材料の手当てをどうすべきか
いずれも、予め根拠となる数値を用意しておく必要がありますので、これをどうやって用意するかの作戦が重要と言えます。また、実際にやってみると微妙に誤差が生じるはずですから、これも次のシミュレーションに反映させると効果が上がります。