料理に学ぶ、標準化入門

技法概要:標準化

標準化は厳密には「技法」ではありませんが、業務設計を行う上で、基本中の基本となります。

標準化を一言で説明すると、様々な要素の「相互互換」を確率することです。

例えば、レシピの表現方法で、「塩少々」「胡椒ちょっと」「小麦粉適量」のように書かれていたら、人により解釈が異なるので、どれも違った味になってしまいます。また大さじ・小さじの大きさが統一されていないと、「醤油大さじ1杯」なのに、大さじの製造メーカーによって量が異なってしまいます。

代々伝わる、秘伝のカレーレシピ・・・

標準化など無くても、料理は作れる、と思ったかもしれませんが、業務として料理を提供するのであれば、日によって味が違うという事態は許されません。日によって調理人が変わることも想定しなければならないので、レシピも調理器具も、誰がやっても同じ味になるように条件を揃えないと、現場が大混乱してしまいます。

 

いまここに、操業以来、代々改良を重ねてきた秘伝のカレーレシピがあるとします。

 

歴代のコック達が創意工夫を重ねてレシピを継ぎ足して来たので、表現方法もまちまちです。時代的な背景もあったのでしょう。

 

その結果、記述内容が「牛肉0.7ポンド、ジャガイモ1こ、にんじん1/10匁・・・ターメリックコップ1杯半・・・」のようになっています。

 

最近入った調理人Xさんは、豪州産バラ牛肉と、男爵いも、にんじんは冷凍ものを使って、分量はグラムに直して調理しました。

 

数ヶ月前に入ったものの、調理人志望だったYさんは、テストで作らせて貰った気合いの逸品に、神戸牛とラセット・バーバンクというフライドポテトが作れる巨大なジャガイモを取り寄せ、食べやすそうなミニキャロットを使って調理しました。

 

ベテランのZさんは・・・。

 

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もう、おわかりですね。材料の解釈が違うだけでも、全員全く違った味/見た目のカレーになってしまうのです。

調理器具の標準化

カレーの下ごしらえには、フライパンを使います。

一方、煮込む時には鍋の方がよさそうです。

この時、たまたま鍋の蓋が割れてしまい、他の鍋が使用中で使えなかったとしましょう。

同じ径のフライパンの蓋なら、鍋にも流用できそうですが、実際にはめてみたらわずかにサイズが合わず、中に落ちてしまう・・・といった経験はありませんか?

本来は大きさにも一定の規格があり、ある程度相互流用ができるはずですが、規格外であっても販売できるので、たまにこうした事態が生じます。

そんなとき、予め相互に互換性が維持できるよう、蓋を意識して設備を調達しておけば、いざという時に応用が利きます。

ここで、先のレシピを見直して見ると、ターメリックの量は「コップ」で軽量していることに気付きます。

当時はコップが1種類しか無かったのかも知れませんが、今はワインもビールもジュースも提供するので、様々なサイズのコップが存在します。

同じ味にするには、同じ大きさのコップが必要ですが、コップに品番はありませんから、何十年もして同じ物を調達するのは至難の業です。

そんなとき、最初から「計量カップ」を基準に表現していれば、何十年たっても変わらずに利用ができます。なぜなら、計量カップ自体が規格ものだから、時代が変わっても通用するのです。

運用の標準化

カレーを作る、といっても、最初から皮がむかれた状態の野菜があるわけではありません。

更に踏み込んで言えば、ストッカーから材料を持ってくるところから始まります。

肉なら冷蔵庫から、野菜類は裏の収納庫から持ってくる、という流れになっているはずです。

この時、全て(調味料も含めて)冷蔵庫に保管するというルールで「一元化」したとすれば、効率化に繋がるでしょうか? ・・・ 確かに冷蔵庫を開ければ全て揃う、という意味では、ワンストップ化のメリットがあるかもしれません。

ところで、調理後の体積比でいえば、肉より野菜の方が圧倒的に多いはずです。つまり、肉だけ収納していた頃に比べると、冷蔵庫の大きさは何倍ものキャパが必要になります。これは初期投資の増大とともに、電気代というランニングコストも増大することを意味します。

また、1人で作る場合は未だ良いのですが、複数名で分担するとなると、大勢が冷蔵庫に行く必要が生じるので、冷蔵庫の前に待ち行列が生じかねません。これでは、一元化したメリットが失われてしまいます。

このように、同時に行う要素を考慮(PERT/Time等)し、アクセスが集中しないよう確認(シミュレーション)して分散しつつ、コスト配分が最適化(バランス分析・シミュレーション)できるよう、置き場所を考える方が良さそうです。

このように、料理の味(=商品・サービスの質)も一定水準に保つ必要がある一方、これらを生み出すためのプロセスにおいても、一定の合理性を持つルールが必要であることが分かります。

こうした考え方や基準を統一することが、業務の標準化に繋がります。そして、これらの基準があってこそ、レシピの表現方法も統一できるわけです。

標準化の結論

材料や道具の置き場所から始まって、調理器具類の規格統一による互換性維持を前提に、レシピの表記方法を統一する、といった環境が整って、初めて「誰が作っても同じ品質のカレー」が作れるようになります。

もちろん、「食べて美味しいカレー」のレシピであることが大前提です。

こうしたルールは、後からでもできなくはありませんが、できるだけ初期段階で全体を俯瞰しながら設計しておくのが望ましいといえます。なぜなら、標準化による効果の目的が、各作業の互換性確保であり、時代が変わっても通用する時間軸における互換性であり、道具類の使い勝手や維持管理コストに直結する互換性・・・等多岐にわたるからです。

冒頭で触れたように、標準化そのものが技法ではありませんが、標準化の視点を抜きに分析をしても単位作業内での効率化に留まるのに対して、標準化が確立されていれば他部門や取引先まで含めた広範囲に効用が及び、時代が変わっても通用する効率化に繋がります。

こうした考え方や基準を統一することが、業務の標準化に繋がります。そして、これらの基準があってこそ、レシピの表現方法も統一できるわけです。