想定外の早期出産、準備無しで引き継いだ末路...
要約:妊娠中のプロジェクトリーダが、予定日より1ヶ月半も早く突然の出産。
やむなく、引継ぎの時間もとれず、何も知らない社員にバトンタッチ。
本番当日までに行う筈の手順を認識できず、ぶっつけ本番となった当日、事故が発生。
効率化プロジェクトのきっかけ
N社では、社員の評価にあたり、360度評価を採用しています。
Excelで作った調査票でアンケートを実施、結果を集計して本人の他、同僚・上長の相互評価を基にポイント化し、前期と比較することで伸び率を出し、その数値によって翌期の給与が決まる仕組みとなっています。
しかし、部署移動や人の出入りが激しいことから、前年と同じ条件で比較することが困難であり、この作業のために専属のチームが年2回長時間労働を強いられていました。
その最大の理由が、集計ミスの検出とその修正にかかる時間でした。
主担当のA女史は、出産が近いこともあり、引継ぎにあたって当該業務の抜本的な改善を決意し、システム開発ベンダーと共に検討を始めました。
業務の分析と対応方針
一番の課題は、組織変更が頻繁に行われることです。
そこで、業務体系分析に似た「情報分析シート」を使って、組織・個人の情報の持たせ方を見直し、名称が変わる・分割されるといった場合でも、自動的に対応ができるようにしました。
また、年によって設問が異なる場合がありましたが、前回と関連付けられる情報の持たせ方をしたことで、経年でも同一軸で評価できるようにしました。
こうして各種標準化を終え、システム実装も始まり、あとは本番に向けて準備を進める段階となりましたが・・・
想定外! 突然の早期出産
情報システムの仕様が決まったその矢先、A女史は突然産気づき、出産のため産休を余儀なくされてしまいました。やむを得ず、この同じ部署の後任者が引き継ぐことになりましたが、このプロジェクトの経緯は知らされていません。あまりに突然のことに、システム開発ベンダー側にもそれは知らされていませんでした。
ところで、本番稼働までには組織の台帳(組織変更がある都度変更が必要)への最新情報登録と、社員台帳(どの組織に所属しているか、の情報を含む)を最新状態にする必要がありました。
このため、利用開始1ヵ月前から台帳類の整備を開始し、2週間前にシステムが完成したあとに予行演習を兼ねた検収を行う段取りでしたが、何をしてよいのか分からなかった新担当者は、そのまま本番当日を迎えることになってしまいました。
その結果、ぶっつけ本番で全社員への説明を行った上で、「動かない!すぐに動かさないと業務に支障を来す!」という事態になってしまいました。
結局その日は説明を取りやめて爾後に回すことになりましたが、新担当者と新システムに対する信用は地に落ちてしまいました。ベンダーからはしきりに「最新状態を登録する」「全員のPCに指定されたアプリケーションを設定する」などの説明がありましたが、「コンピュータなんだから、全部自動でやってくれるはず」との思い込みがあり、動作までに3ヶ月を要してしまいました。
反省:こうすれば良かった
直接の原因は、前担当者が予想外に早期出産となってしまったため、引継ぎが全くできなかったことです。
しかし、妊婦が早期出産するリスクは、企業としては認識すべき事項です。こうしたリスクに備えた体制が整っていれば、勝手が分からない新担当者がトラブルに振り回されることも無かったはずです。
また、新担当者は機械類が全くの苦手で、コンピュータはほとんど使えず、「コンピュータだから勝手にやってくれる」と思っていました。これでは、引継ぎ期間が十分にあっても、同様の職務をこなせたかどうかは疑問です。
少なくとも、他にコンピュータが得意な社員がいくらでもいることは分かっていたのですから、チームを組んで事に当らせるといった”体勢”がとれていれば、ここまで遅延することはありませんでした。
どんなに事前の分析がしっかりしていても、高性能な機械・システムがあっても、それを使いこなせる状態になければ、他からの持ち腐れとなってしまいます。
「作って終わり」「企画して満足する」といった例を散見しますが、中長期的に効果を維持できるようにするためには、体勢が重要ですね。