業務改善事例:業務設計による、複雑なパターンの整理
要約
- R社は、顧客企業に対して経年でアンケート調査したものを分析し、レポートを収めている調査会社。
- 作業手順が極めて複雑で、加工後の体裁もまちまちのため、いわば、何十種類もの食材で何十種類もの料理を作らなければならないような状態。
- ベテラン社員が中心に切り盛りしていたが、そのうち1人が突然の産休で、急に人手不足に。
- いきなり目先の自動化を積み上げるのでは無く、十分に業務設計したことが奏功し、複雑に見えたパターンの整理に成功、システム化を実現できた。
R社の業務概要
調査会社R社は、顧客企業に対して経年でアンケート調査したものを分析し、レポートを収めています。
対象となる業務は、アンケート設問数が年により大きく変わる、レポートに求められる内容が年々高度化したこともあり、極めて複雑な加工を要しています。
状況により手順が異なるため機械的な加工が難しいという事情の他、手作業なら細かい設定が個別に行えることもあり、全て手作業で加工していました。こうした事情により、テラン社員がカンと経験により例外的な事象への対処を行いつつ、中長期的に派遣社員を育成していました。
ところが、長年育成してきた派遣社員の1人が育休に入ることになり、突然の人手不足状況に置かれることになってしまいました。
折しも、今年は大改訂の年。従来通りに人手に頼っていては、絶対に終わらないことが明らかであったため、改めて不可能と諦めていたシステム化を模索することとなりました。
※実際の出力グラフパターンの例
顕在化している課題
対象業務が人海戦術を要するには、以下の様な事情がありました。
- アンケートの集計は基幹システムで行うが、その結果ファイルを基に全て手作業で加工し、グラフの調整なども手で行っている。
- 奇数/偶数年で、設問数が変わる(多い年で約60問)。これを几帳面に毎回削除・追加していた。
- 設問ごとに、単年/経年比較を行い、表とグラフで資料化しているが、どの設問がどのグラフで表現するかに規則性がない。
- 設問の位置が毎年変わるため、表やグラフの見出し文言を変更する必要がある。
- 全体傾向資料として、男女別/年代別/所属部署別/役職別/勤務形態別/業務内容別・・・の集計を行い、閾値による色分けを行っている。
- 元になる回答データは、基幹システムで独自様式に処理されたのExcelファイル。但し、単独では不足する項目があるので、他のファイルと突合して情報を補填するが、突合方法が形式によりまちまち。
- アンケート回収時期がまちまちで、毎年異なる。事前計画がしづらいため、集計が終わったファイルから作業に着手している。
- どの設問をどのルールで加工して、どのような表・グラフにするかは、ベテラン社員にしか分からない。よって、時間をかけて対応できる派遣社員を計画的に育成している。
システム化が困難、という観点から言えば、以下の理由にまとめられます。
- データ形式がばらばらなので、機械的に読み取れない。
- 対前年で比較したいが、設問番号が頻繁に変わり、設問の文言も変わるから、人が判断せざるを得ない。
- グラフの設定は設問毎に「過去○年分」の指定が年度ごとにあるため、設定を変更しなければならない。
- グラフに表示される文言は、毎年一部を見直す必要があり、自動化できない
- 部署毎の集計など、組織変更があると基準が変わる
※入力ファイルの例
※区分別集計の例
業務設計により、システム化対応へ
対象業務を一言で表すと、アンケートで毎年同様の質問をし、その結果を「経年で比較しながら、今年の特徴を把握したい」というニーズに応える資料を作成する、ということになります。
しかし、実際には口で言うほど単純ではありません。
設問により加工方法、および加工後の体裁がまちまち、とのことでしたが、無限に組み合わせがあるはずも無いので、どの程度種類があるか棚卸ししてみたところ、約20種類に分類できることがわかりました。
また、複雑怪奇に見えた作業手順も、大きくは4種類に整理でき、更にそれぞれの中で分岐が発生する構造であることが見いだせたので、これをツリー図状で視覚化することができました。
一方、どの設問がどの手順に相当するかは顧客側の指定によるので、機械的な判断ができません。とはいえ、設問毎に「どの処理パターンで、どの体裁を用いるか」を設定できるようにしておけば、機械的な処理は可能です。
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このように、業務分析を行った上で、新しい業務設計を行い、この手順に従ったシステム化の設計が実現できました。
わかりやすく、調理手順に例えると・・・
- まず材料を、野菜・肉・調味料・・・のように、大きなグループで分類。
- 調理(加工)方法は、焼く・揚げる・煮る・・・のように、これもグループで分類。
- 更に分類を細分化する場合は、「下ごしらえ(処理前の加工)の要否」のような同じ基準で分ける。
- 盛りつけ方(グラフ・表の体裁)も、皿・スープ皿・丼・・・のように分類。大きさはサブカテゴリで分類。
- 「作業(調理)」の視点で基準となる分類を行い、前後(材料・盛りつけ方)との関連付けを行う。
・・・と言った説明に置き換えられます。
もとは、材料が提供されるたびに何を作るか調べて、その都度調理していたわけですから、時間がかかるのは当然です。
改訂後の効果 ~かかる時間は100分の1以下に!!~
初年度は、さすがに情報システムを新規に0から作り上げたため、従前同様の手間がかかってしまいましたが、
2年目は、ほぼ環境の使い回しができたので、設定や検証を慎重に行う必要はありましたが、加工処理自体は1日でできました。
もともと、設問数に応じて律儀に削除~追加を繰り返していましたが、いわば「工場を休止ではなく取り壊している」ようなものです。その次の年も使うことが分かっているのであれば、Excelらしく非表示にすれば事足ります。
3年目以後も環境を使い回せることから作業は同様となるので、当該業務にかかる時間は、100分の1以下に短縮できたことになります。